補聴器の世界に入って、さまざまなお客様とお会いしました。
忘れられない出会いの中から、いくつかをご紹介したいと思います。
メーカーの営業時代のことです。
担当していた補聴器専門店で、生まれつき難聴の女の子のお相手をさせていただく機会がありました。
その子は古くなり調子も悪くなったアナログ補聴器から、当時、新発売されたデジタル補聴器に交換されたのです。
何度かお会いして補聴器のフィッティング(音の調整)をさせていただいているうちに、「友達の声だけじゃなくて、ヤカンのピーッって音とかね、今まで知らなかった音がいろいろ聞こえるんだよ!」とうれしそうに話してくれました。
お母様も「この子はこれから、いろいろな音にめぐり合うことができるのね」と涙ぐまれていました。
そして最後に「お兄ちゃん、よく聞こえるように補聴器に魔法をかけたんでしょう?」と言ってくれたのです。
このひと言が「補聴器の世界で生きていこう。いつか自分でお店をやろう」と思ったきっかけだったのかもしれません。
メーカーの製造部時代のことです。
耳あな型補聴器の修理をしていた後輩が相談にきました。
あまりにも頻繁に故障するので、クレームがきているとのことでした。
過去の故障原因と修理履歴を確認したところ、毎回、同じ故障原因であり、修理内容でした。そもそも、お客様の体質的に耳あな型は適さないようでした。
そこで、補聴器にある対策を施し、お客様自身にも故障リスクを減らすようなお手入れ方法をご提案いたしました。
実は、この方は当店のお客様です。
当店を引き継いでから、実際に何度もお会いしていますが、その後は故障もなく補聴器をお使いいただいています。
故障というものは、お客様はもちろん、販売店やメーカーにとってもよいことではありません。自分の提案が十分に役立つことを実感したできごとでした。
私が自分でお店をするようになってから、メーカー勤務時代には聞けなかった言葉を、たくさんのお客様からいただいていることに気がつきました。
それは「一生、面倒をみてね」という言葉です。
メーカー時代にも、取引先の販売応援で「ありがとう」という言葉はいただいていました。
そのたびに、「モノを販売して感謝されるなんて、補聴器ならではのことだなあ」と感激していましたが、「一生、面倒をみてね」と言われたことはありませんでした。
今と変わらず一生懸命にやってはいたのですが、やはり、その場かぎりのお手伝いであるとお客様も感じていたのでしょう。
「一生、面倒をみてね」といわれるたびに、うれしさとともに身の引き締まる思いがします。